短期集中連載「平成レトロ・リバイバルズ」第2回:“あの食感”がZ世代に刺さる理由 – ナタデココと平成スイーツの逆襲

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前回の記事では、Y2Kブームの先に広がる、より大きな「平成レトロ」という潮流について論じた。それは単なる懐古趣味ではなく、Z世代の価値観によって再発見された、新しい文化のうねりである。

その象徴的な事例として、今回我々が注目するのが「ナタデココ」だ。

ティラミスとともに平成初期のスイーツ界に彗星のごとく現れ、一世を風靡したあの白いキューブ。一時の熱狂が去った後、ヨーグルトやドリンクの名脇役として静かに生き長らえてきた彼が、なぜ今、再び主役の座に返り咲こうとしているのか。

その背景には、「タピオカの次」を探す市場の渇望と、Z世代の特異な消費行動、そして現代日本を席巻する「食感」への強いこだわりがあった。

記憶の片隅から最前線へ – 1993年の衝撃と令和の再発見


ナタデココブームが日本を襲ったのは1993年(平成5年)。ファミリーレストラン「デニーズ」がメニューに採用したことをきっかけに、その人気に火がついた。当時、人々を熱狂させたのは、こんにゃくでもゼリーでもない、唯一無二の“コリコリ”とした食感。そして、低カロリーでヘルシーという付加価値だった。

しかし、ブームが去ると、ナタデココは「懐かしいもの」として記憶の片隅へと追いやられていく。

一方、令和の時代。空前のタピオカブームは、若者たちに「ドリンクを“飲む”だけでなく“噛む”」という新たな楽しみ方を定着させた。そしてブームが落ち着いた今、「次の食感は何か?」という問いが、巨大なスイーツ・ドリンク市場の共通課題となっている。

その答えの一つとして、ナタデココに再びスポットライトが当たったのだ。だが、今回のリバイバルは、単なる30年前のブームの繰り返しではない。主役は、当時の熱狂を知らないZ世代だ。

グミが育てた「食感ネイティブ」たち


Z世代がナタデココに惹かれる理由を探る上で、無視できないのが「グミ」市場の隆盛である。

今や1,000億円市場にまで成長したグミは、Z世代にとって単なるお菓子ではない。ハード系、ソフト系、パウダー付き、大粒、薄型… 無限とも言える食感のバリエーションから、その日の気分で「推し」を選ぶ。友達とシェアして食感をレビューし合う、一種のコミュニケーションツールにすらなっているのだ。

Z世代の彼らは、幼い頃から多様な食感に触れて育った「食感ネイティブ」とも呼べる世代。そんな彼らにとって、ナタデココの「コリコリ感」は、グミともタピオカとも違う、新鮮で魅力的な選択肢として映る。それは、数多の食感を経験してきた舌だからこそわかる、絶妙なポジションなのである。

最大の武器は「エモ消費」を誘う“不完全さ”


そして、このリバイバルを決定づける最後のピースが、Z世代特有の「エモ消費」という価値観だ。

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「エモ消費」とは、商品の機能や価格だけでなく、それにまつわるストーリーや、手にした時の感情的な高まりを重視する消費行動を指す。完璧に整えられた「映える」商品よりも少し不器用で、ツッコミどころのあるモノに心を揺さぶられる。

ナタデココは、まさにこの「エモさ」の塊だ。
洗練された最新スイーツと比べれば、見た目はただの白い塊。アジアの食材コーナーや、少しレトロな喫茶店のメニューで発見する、あの“わかってる感”。その素朴さが、逆にZ世代の心をくすぐる。

「これ、お母さんが好きだったやつだ」という家族の記憶

完璧じゃない、少しチープなパッケージデザイン

スマホで撮ると、なぜか“いい感じ”に映るノスタルジックな佇まい

これら全てが「エモい」という感情フィルターを通して、ナタデココを特別な存在へと昇華させているのだ。

食感ブームの現在地、それは「物語」への回帰


ナタデココの逆襲は、単なるリバイバルではない。それは、「食感ネイティブ」であるZ世代が、その鋭敏な感覚で平成のカルチャーの中から「本物」を掘り起こし、「エモ消費」という自分たちの価値観で新たな意味を与えた結果なのである。

タピオカが切り拓いた「食感の時代」は今、単なる物理的な歯ごたえの追求から、その食感が呼び覚ます「感情」や「物語」を重視するフェーズへと移行している。

ナタデココの小さな一粒は、平成から令和へと続く、日本のスイーツカルチャーの壮大な物語を、その食感の中に閉じ込めているのかもしれない。

(第3回へつづく)

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