2020年代前半、私たちのカルチャーシーンを席巻した「Y2K」ブーム。厚底ブーツ、ローライズジーンズ、そしてキラキラのデコレーション。当時を知る世代にとっては懐かしく、Z世代にとっては新鮮なそのスタイルは、瞬く間に一大トレンドを築き上げた。
しかし、2025年の今、その潮流はさらに大きなうねりを見せ始めている。Y2Kという一点の輝きは、より広範で奥深い「平成レトロ」という名の銀河へと溶け込みつつあるのだ。
当サイト(オモシロ記事工場)がかつて「短期集中連載 Y2Kヤング、カムバックス」で追いかけた現象は、壮大な物語の序章に過ぎなかったのかもしれない。本連載「平成レトロ・リバイバルズ」では、Y2Kのさらにその先、平成という時代全体が現代に与えている影響を、具体的なリバイバル事例から紐解いていきたい。
Y2Kから「平成レトロ」へ – ブームの深化
まず、「平成レトロ」と「Y2K」の違いを整理しておこう。Y2Kが「Year 2000」の略称であり、2000年前後のファッションやカルチャーを指すピンポイントな概念であるのに対し、「平成レトロ」は1989年から2019年までの約30年間という、より長く多様な時代を内包する言葉だ。
Z世代にとって、Y2Kは「知らないけど新しいカワイイ」。しかし、平成レトロは、彼らが物心ついた頃の“おさななじみ”のようなカルチャーも含まれる。ゲームボーイアドバンスの記憶、アニメ『おジャ魔女どれみ』の呪文、親が撮ってくれたデジタルカメラの粗い写真。それらは、懐かしいというよりも、自分のアイデンティティの一部として、心地よい“エモさ”を伴って記憶されている。
2025年のトレンドは、この“エモさ”がキーワードとなる。完璧に作り込まれた「映え」の世界から、少し不便で、少し隙のある、人間味あふれるカルチャーへの揺り戻し。それが「平成レトロ」ブームの本質であり、私たちが今、この現象に強く惹かれる理由なのだ。
「ナタデココ」と「原宿系」が示す未来
本連載で注目したいのは、まさにその「揺り戻し」を体現するトレンドだ。
例えば、ナタデココ。1990年代に一大ブームを巻き起こしたこのデザートが、タピオカブームを経た今、再び注目を集めている。独特の歯ごたえとヘルシーさ。それは単なるリバイバルではない。数多の“映え”ドリンクを経験したZ世代が、一周回ってたどり着いた「食感の面白さ」と「心地よさ」への探求心を満たす存在として、新たな価値を見出されているのだ。
そして、原宿系ファッション。かつてのカラフルでデコラティブなスタイルは、形を変え、K-POPアイドルの衣装や、現代の多様なストリートスタイルの中にそのDNAを色濃く残している。「カワイイ」の定義が拡散し続ける現代において、その原点とも言えるパワフルな自己表現が、再び若者たちの心を掴んでいる。
これらは、単なる過去の模倣ではない。平成のカルチャーをフィルターとして、令和の今を生きる私たちが、自分たちらしい楽しみ方や価値観を再発見するムーブメントなのである。
これから始まるリバイバルの物語
次回の記事では、早速「ナタデココ」を深掘りし、なぜ今、あの独特な食感が求められるのかを考察していく。その後も、「原宿系ファッション」の進化、「デジカメ」や「プリクラ」といったアナログガジェットの魅力など、具体的なテーマを追いかける予定だ。
Y2Kの熱狂の先に見えてきた、もっと大きくて、もっと優しい「平成レトロ」の世界。この連載を通して、読者の皆さんと一緒に、その魅力の核心に迫っていきたい。
(第2回へつづく)