「2000年代の若者」。いまより、四半世紀も前の話だ。
そりゃ、いまの何でもデジタル化された世界と比べると、アナログとデジタルが5分5分の違和感のある時代だ。
不便だったのかと言われるとそうでもない。僕らはそのアナログとデジタルを駆使して最先端を生きていた。
このエッセイではY2Kについてルーズソックスやポケベル、プリクラとどちらかと言えばガールズサイド(女子側)のスタイルを書いてきたが、メンズスタイルにもY2Kの特徴的な部分が持ち合わされており、ここで書かなくては、どこで読めるのだろうという内容でお送りしたい。
当時の女子たちのファッション、特にギャルたちのスタイルは、ルーズソックスやミニスカート、肌見せなんかもあったりして、遠目にも「派手!」と感じるような、非常に分かりやすいアイコン性(象徴)がありましたよね。それに比べると、僕たち男子のスタイルは、そこまで劇的な変化や「派手さ」はなかった、というのが正直な感覚かもしれない。
でも、決して無個性だったわけじゃない。派手さの代わりに、当時の男子スタイルが重視していたのは、何より「機能面」と、そして全体的な「楽でラフな感じ」だったように思うんです。
ストリートファッションの影響が大きかったこの時期。スケートボードをするわけじゃなくても、どこか動きやすそうだったり、気取ってない感じだったりするスタイルがカッコいいとされていました。ゆったりとしたシルエットの服が多くて、まさに「楽」に着られるものが多かった。
その象徴的なアイテムの一つが、カーゴパンツ。両サイドに大きなポケットが付いたあのパンツ。正直、ポケットに何か入れるかと言われるとそうでもなかったりするのだが、あのポケットのごちゃっとした感じや、ちょっと太めのシルエットが、まさに求めていた「ラフさ」や「機能性がありそう」な雰囲気を演出してくれていた。動きやすいし、カジュアルだし、Tシャツ一枚合わせるだけでもそれなりに見える。一本持っているとすごく重宝した。
そして足元。Y2Kボーイズスタイルの足元を語る上で避けて通れないのが、エアマックスに代表されるようなハイテクスニーカー。
ゴツめのシルエットに、ビジブルエア(見えるエアクッション)などの技術的なデザイン。
あの「いかにも機能的です!」みたいな見た目が、たまらなく僕たちのハート(心)を掴んだ。
値段は高かったけど、これを履いているだけで一目置かれるような、そんなステータス感があった。
クッション性が高くて歩きやすい、まさに機能性もバッチリ。デザイン性と機能性が両立した、時代のアイコン(象徴)だった。
バギー気味のジーンズやチノパンに、ちょっとゆったりしたロゴTシャツ、そして足元はエアマックスかボリューム系スニーカー。
上にはチェックのネルシャツを羽織ったり、カラフルなトラックジャケットを合わせたり。シルバーのネックレスやウォレットチェーンをチラ見せしたりするのも定番だった。
そんなメンズスタイルを身にまとって、僕たちがどこにいたかというと、やっぱり、女子との合流点でもあったゲームセンターは外せせない。
自宅のプレイステーションやセガサターンといった32ビット機でさんざん練習した格闘ゲームのテクニックを、満を持してゲームセンターの対戦台で披露する。人垣ができる中で、自分の思い通りのコンボが決まった時のあの高揚感は最高だった!

ゲームセンターと同じくらい、あるいはそれ以上に僕たちの「遊び」であり「文化」だったのが、音楽探し。
週末に街に出かけて、タワーレコードやHMVといった大型CDショップに立ち寄る。ジャンルも分からない洋楽のCDを試聴しまくったり、雑誌で見たアーティストのCDを探したり。そうやって「これだ!」という一枚を見つけて、タワーレコードのあの黄色い袋と手に入れたばかりのCDを持って帰る道すがら感じる、得も言われぬ満足感や、ちょっとしたステータス感。あの感覚は、サブスク全盛の今ではなかなか味わえない、当時の僕たちにとっての特別な時間だった。
そう考えてみると、僕たちが生きていたY2Kという時代は、今からおよそ25年が経ち、全てがデジタル化された世界とは、少し違う、アナログとデジタルが実にうまく共存して調和していた時代だったのかもしれない。ゲームはデジタルの最先端を競いながらも、音楽はCDという物理メディアを足繁く探し求め、プリクラはデジタルで撮影しても手元に残るのは物理的なシール。雑誌をめくって情報を得て、友達とはポケベルや初期のケータイで連絡を取り合う。
そんな、物理的な手触りや場所の持つ空気感と、デジタルの便利さや新しさが混ざり合った独特の日常の中で、僕たちの「楽でラフなメンズスタイル」は息づいていた。あの頃のファッションは、ただカッコつけるだけじゃなく、僕たちが思いっきり遊んで、世界を広げていくための、いわば「戦闘服」であり「普段着」だった。
何を隠そう、ファッションやカルチャーが今も体から抜けきらない僕なんかは、未だに腕にはカシオのG-SHOCKを身につけていたり、知らず知らずのうちに当時のスタイルの「楽さ」や「機能性」をどこか周到していたりする。僕たちのY2Kメンズスタイルは、単なる流行じゃなく、生き方そのものに根ざしていた。あのアナログとデジタルの心地よいブレンドの中で培われた感覚は、今も僕の中に生き続けている。